五月になると、青空を泳ぐように揺れるこいのぼり。子どもの日の風物詩だが、なぜ鯉なのか、なぜ空に揚げるのか、その由来を知っている人は意外と少ない。こいのぼりには、中国の伝説や日本の武家文化・庶民文化が重なった、深い意味が込められている。本記事では、こいのぼりの由来や登竜門の伝説、端午の節句との関係、真鯉・緋鯉といった色の意味、吹き流しや矢車の役割までをわかりやすく解説する。
こいのぼりとは
こいのぼりとは、端午の節句(5月5日)に、男の子の健やかな成長と出世を願って揚げる、鯉の形をした旗(のぼり)のことだ。
- 子どもの成長を願う:こいのぼりは、子ども、とくに男の子がたくましく育つようにという願いを込めて飾られる。
- 江戸時代に生まれた:こいのぼりは江戸時代に生まれた、日本独自の文化だ。長い歴史のなかで今の形になった。
- 空を泳ぐ姿が特徴:風を受けて空を泳ぐように揺れる姿が、生命力あふれる鯉を思わせ、春の空によく映える。
こいのぼりの由来
こいのぼりは、はじめから今の形だったわけではない。もとは絵を描いた旗から始まり、少しずつ変化してきた。
- 始まりは絵のぼり:江戸時代の初めごろ、鯉が滝を昇る様子を描いた「絵のぼり」が、子どもの成長を願って飾られていた。
- 吹き流し型の鯉が登場:江戸時代の中ごろになると、その絵をもとに、風で泳ぐ吹き流し型の鯉のぼりが作られ、現在の形につながった。
- 日本独自の文化に:中国の伝説をもとにしながらも、こいのぼりは日本の中で独自に発展した文化といえる。
登竜門の伝説(なぜ鯉なのか)
こいのぼりに「鯉」が選ばれたのには、中国に伝わる有名な伝説が関わっている。
- 竜門の滝を昇る鯉:中国の伝説では、激しい急流である「竜門」という滝を昇りきった鯉は、竜になって天に昇るとされる。
- 立身出世の象徴:この「登竜門」の伝説から、鯉は努力が報われ、立派に成長・出世することの象徴とされてきた。
- 子への願いを重ねる:わが子が鯉のように困難を乗り越え、立派に育ってほしいという願いを込めて、鯉の姿が選ばれたのだ。
端午の節句とこいのぼり
こいのぼりは、5月5日の「端午の節句」に飾られる。この行事との結びつきを知っておこう。
- 端午の節句とは:端午の節句は、もともと季節の変わり目に厄をはらう行事で、のちに男の子の成長を祝う日となった。
- こどもの日:現在、5月5日は国民の祝日「こどもの日」として、子どもの幸せを願う日になっている。
- 五月人形とともに:こいのぼりは屋外に、鎧兜などの五月人形は屋内に飾られ、どちらも子どもを守り成長を願う意味をもつ。
武家文化と庶民文化
こいのぼりが広まった背景には、武家と庶民、それぞれの文化の影響がある。
- 武家は幟を立てた:もともと武家では、端午の節句に家紋を入れた幟(のぼり)やのぼり旗を立てて、男児の誕生を祝っていた。
- 庶民が鯉のぼりを揚げた:これに対し、江戸の町人(庶民)が、登竜門の鯉にちなんだ鯉のぼりを揚げるようになった。
- 庶民の願いが込もる:身分にかかわらず子の出世を願う気持ちが、こいのぼりという形で花開いたといえる。
こいのぼりの色と意味
こいのぼりの鯉の色にも意味がある。実は、色の構成は時代とともに変化してきた。
- もとは黒い鯉一匹:こいのぼりは、はじめは黒い「真鯉(まごい)」が一匹だけだった。
- 明治に赤い鯉が加わる:明治時代になって、赤い「緋鯉(ひごい)」が加えられた。
- 昭和に子鯉が加わる:昭和以降、青や緑の「子鯉」が加わり、家族を表すようになった。今では黒が父、赤が母、青などが子どもを表すことが多い。
吹き流しの意味
こいのぼりの一番上で、鯉とともにたなびいている五色の「吹き流し」にも大切な意味がある。
- 五色の色:吹き流しは、青・赤・黄・白・黒(紫)などの五色でできていることが多い。
- 魔よけの意味:この五色には、子どもを災いから守る魔よけの意味が込められているとされる。
- 鯉より上に飾る:吹き流しは鯉よりも上に飾られ、家族を災いから守る役割を担っている。
矢車の意味
こいのぼりのてっぺんでくるくると回る「矢車(やぐるま)」にも、ちゃんとした役割がある。
- 車輪の形の飾り:矢車は、矢が中心に向かって並んだ、車輪のような形の飾りだ。
- 魔よけと幸運:矢車には、魔をはらい、幸運を射止めるという意味が込められているとされる。
- 回る音で神を招く:風を受けて回るときのカラカラという音が、悪いものを追いはらい、神さまを招くともいわれている。
こいのぼりを飾る時期
こいのぼりをいつ出して、いつしまえばよいのか。目安を知っておくと安心だ。
- 春分ごろから:一般的には、春分の日を過ぎた4月ごろから飾り始める家庭が多い。
- 5月5日まで:端午の節句である5月5日に向けて飾り、こどもの日を迎える。
- 片付けは天気のよい日に:節句が終わったら、5月中旬ごろまでに、よく晴れて乾いた日を選んで片付けると長持ちする。
こいのぼりの歌
こいのぼりといえば、だれもが知る童謡が思い浮かぶ。歌詞にも由来や意味が表れている。
- 「やねよりたかい こいのぼり」:屋根より高く泳ぐこいのぼりの様子を歌った童謡は、子どもたちに長く親しまれている。
- 家族を表す歌詞:大きな真鯉をお父さん、小さな緋鯉を子どもたちにたとえるなど、歌詞にも鯉が家族を表す考え方が反映されている。
- 季節を感じる歌:五月の空を泳ぐこいのぼりを歌う童謡は、春から初夏への季節の移ろいを感じさせてくれる。
- 世代を超えて歌い継がれる:こいのぼりの歌は、祖父母から親、そして子へと世代を超えて歌い継がれてきた。歌を通して、行事の思い出が家族の中に受け継がれていく。
端午の節句の風習
端午の節句には、こいのぼり以外にもさまざまな風習がある。あわせて楽しむと季節の行事がより豊かになる。
- 柏餅を食べる:柏の葉は新芽が出るまで古い葉が落ちないことから「家系が絶えない」縁起物とされ、柏餅が食べられる。
- ちまき:関西を中心に、端午の節句にちまきを食べる風習もある。地域によって食べるものが異なるのも面白い。
- 菖蒲湯に入る:菖蒲(しょうぶ)を浮かべたお風呂に入る風習もある。菖蒲の強い香りには、厄をはらう意味が込められている。
- 「菖蒲」と「尚武」:「しょうぶ」の音が、武を重んじる「尚武」や「勝負」に通じることから、端午の節句は男の子の行事と結びついたともいわれている。言葉の響きが行事の意味を深めてきた例だ。
まとめ
こいのぼりは、中国の登竜門の伝説をもとに、江戸時代の日本で生まれた、子どもの成長と出世を願う文化だ。滝を昇って竜になる鯉のように、わが子がたくましく育ってほしいという願いが込められている。黒い真鯉から始まり、時代とともに緋鯉や子鯉が加わって家族を表すようになった。吹き流しや矢車には魔よけの意味もある。由来や色の意味を知って眺めれば、青空を気持ちよさそうに泳ぐこいのぼりの姿が、いっそう味わい深く、いとおしいものに感じられるだろう。